商品の価値で売る
京セラでは、30年も40年も前から原価+利益=売値という原価主義はとらないと言い始めました。そのとき、社員にはこう言いました。
京セラは、原価+利潤(利益)というような原価主義で販売価格は決めません。京セラは販売する品物の価値で売ります。
原価がいくらであろうと、そのモノに価値がなければ、その値段で売れるはずがありません。
たとえば、ウチが作る絶縁材料で、お客さんがある真空管をお作りになる。お客さんは、ウチの絶縁材料を使って良い真空管をお作りになり、それが1本200 円で売れていた。お客さんはウチの絶縁材料を20円という値段で買っているんだけれども、200円で売れるんだから非常に儲ると喜んでおられる。それはつ まり、ウチの絶縁材料があることによって、真空管の価値が高まっていることになる。
その真空管を作っている大きな部品としての絶縁材料、セラ ミックはいくらの価値で買ってくれますかと訊いたとき、お客さんが「20円だったら喜んで買いますよ」と言ってくれるのであれば、20円で売ろうじゃない か。実際には原価が5円であろうと2円であろうと、20円で売ろうじゃないか。
「いや、社長。5円のものを20円で売るなんて暴利じゃありませんか」と言うかもしれないが、そうではないんだ。お客さんが20円の価値があると言っておられるであって、それでいいんだよ。
たとえばお菓子屋さんであっても、自分で考えて新製品を開発した、新しい和菓子を作った。その値決めはどうすればいいのかというと、その値段は価値で売れ ばいいんだ。この和菓子は味もいいし、形もいいし、素晴らしい。200円でもいいわと言って買ってくれるものであれば、たとえその原価が40円であろう と、200円でいい。原価+利益という考え方をして、原価が40円で利益を10円取るから50円で売ろうなんてことはする必要はない。
ただし、普通の破れ饅頭みたいなものを作って、他で50円で売っているものを200円で売っても、これは売れるわけがない。同業者が同じようなものを作っているのなら、50円なら50円で売らなければならないんだ。
つまり、新しい創意工夫をして自分でやったもの、新製品の場合には、値決めは価値で売りましょう。お客がいくら払ってくれるかという価値で売りましょうということです。
つまり、お客さんがその価値を認めてくれるのであれば、その価値で売るわけです。お客さんが価値を認めてくれるということは、お客さんもそれを使うことによって儲っておられるわけですから、決して暴利でも何でもありません。
もちろん新製品の場合でも、たとえばその原価に200円かかったのだから、40円の利益を乗せて240円で売ろうと思っても、お客さんから「240円なん かでは到底使えません。それは50円だ」と言われれば、50円しか価値がないわけです。50円しか価値のないものを200円もかけて作った、それは我々技 術屋の失敗です。原価がいくらですといくら言ってみたって、それは世間に通用するものではありません。
値決めとは、原価主義で決まって くるのではありません。マーケットが認めてくれる値段、それが先行するのです。その売値で利益をどう出すかというのが経営なんです。値決めを軽視して、非 常に安い値決めをしてしまったために、夜も寝ずに苦労しても利益が出ないというのではたいへんな失敗です。また、高い値段に決めれば、いくら一生懸命売ろ うと思っても売れない、あまり数が売れない値段を決めてしまっても失敗です。
流通業の値決めは粗利を考えて
流通業の場合、モ ノを仕入れて売るには、同業他社よりも少しでも安くなければ売れないのですから、同じ品物であれば同業者よりも少しでも安く売ろうと競争がはじまります。 しかしながら、安くすれば売れるわけですから10%安くして売ったけれども、いったい粗利はいくら残っているのかということです。
ご承 知だと思うんですが、スーパー等の流通業をする場合には、どのくらいの粗利が要るのかということを知らない人が多いんですね。たとえば、100円で仕入れ てきたものがあるとします。他ではそれを130円で売っている。では、オレは120円で売ろう、10円安くしたら売れるだろう、いや、115円なら売れる だろうというので値決めをされる人がよくおられます。しかし、たしかにその値段で売れるんだけれども、経営がなかなかうまくいかない、火の車になるという ことです。
これは、どのくらいの粗利がなければ会社がまわらないのかという常識がないケースです。同業他社を見て、そこよりも安く売れば売れるだろう、値決めが少し安ければいいというだけの感覚で売っているわけです。
普通一般的に、小売りの流通業では粗利が30%なければならないといわれていますね。ですから、非常に安い値段で売っているお店でも、売値の3割引ぐらい の値段で仕入れていると思います。つまり、もし7、8%ぐらいの利益、または10%弱の税引き前利益をあげようと思えば、宣伝広告費、販売管理費、本社経 費、金利、人件費等々、全部計上すれば20%ぐらいの経費がかかるということを、みんな知っているわけです。
ところが素人で、仕入れて売るだけ で2割も粗利があれば結構なことですからと、2割しかないマージンのところへさらに値引きをして、5%の値引きをして、15%の粗利しかない商売をされる と、こんなに頑張っているのにうまくいかない、儲からないとなります。それは値決めが失敗しているんです。それは、そのくらいマージンが要るということで す。
製造業こそ高収益を(商業資本が産業資本よりも強い理由)
右から左へ仕入れて売るだけでも、粗利が30%なければ採算は合わないんです。 しかし、製造業なのに利益がわずか5%、3%しか出ていないという製造業の方がたくさんいるわけです。私は京セラの製造の連中によく言ったものです。
あのね、仕入れて右から左へ売るだけの人たちが3割ほどの粗利を乗せて売っておられる。我々は頭を使って、機械を使って設計をし、技術屋を何人も抱えて、 無から有を作り上げている。なのに、その利益が3%というのは、おまえ、おかしいと思わないか。我々はそんなに価値のないことをしているのかよ。右から左 へ流すだけで粗利が3割あるというのなら、何にもないところからモノを作り上げていかなければならない製造業であれば、粗利は5割ぐらいあってもおかしく ないではないか。流通で3割もあるというんだから、製造だったら5割ぐらいあってもおかしくないんと違うか。
ところが、製造業で粗利が5割もある会社なんて、どこにもないんです。
考えてみますと、資本主義の発達は、まず最初に商業資本が興ってくるんですね。そしてその商業資本は、右から左へ流すだけで暴利をむさぼってきているんです。
人類は最初、野山を駆けめぐって狩猟採集をしておりました。それがだんだん知恵がついてきて、定住するようになり、一個所に住むようになると、そこでいろ んなものを栽培しだします。畑を作り、その収穫でもって家族を養っていこうというふうに、狩猟採集をから農耕に変わっていくわけです。
農耕によ り、貯えが始まれば、知恵のある奴が出てきて、苦労する農業はしないで、余っているアワを安く仕入れて、アワが足りないところに担いでいって高く売ろうと 考えつく奴が出てきたわけです。つまり、地理的な移動をすることによってモノに価値ができる、豊富なところから少ないところに持っていけば高く売れる。そ れが商業資本の始まりなんです。
アワを仕入れて売りますから、商業資本の人はなるべく安く叩いて仕入れて、なるべく高く売ろうとしま す。つまり、農業をやっている人は買い叩かれるわけです。ですからこんにちまで商業資本が強くて、産業資本は弱いんです。本当なら製造メーカーのほうが技 術も使い、何もかも使うんですから、うんと利益率が高くなければならんのに、弱いものだから、実際には流通のほうが利益率が高くて、製造は少ないというふ うになってきたんですね。
私は皆さんに、「税引き前利益10%出ないような仕事をするなら、もう辞めなさい」と言って、いつもハッパをかけているのには理由があるんです。京セラの製造の連中には、こういうふうに言っておりました。
銀行金利でも、普通のときなら6%、7%、8%する。お金というのは人に貸せば、何にもせんでも6%、7%もの金利を稼いでくる。我々は失敗すれば大きな損をするかもしれない事業をやって、2%か3%しか利益が出ていない。それではワリが合わないじゃありませんかよ。
ただお金を泳がせて、鵜飼いの鵜匠みたいにお金を動かして、自分達は何も苦労しないで高いびきで寝ている。それでも、お金がまたお金を食わえて帰ってく る。それに較べて、我々はこれだけの苦労をしているのだから、もっと利益率が高くてもおかしくはないじゃありませんかよ。
もうひとつの理由は、先ほどの流通資本の話です。「品物を仕入れて、右から左へ売っても粗利が30%もある。我々の製造業であれば、もっと利益率があってもおかしくないじゃありませんか」。そう言ってハッパをかけて、利益率を高めていくようにしていったわけです。
コストダウンの考え方をガラリと変える(足し算からバリューアナライシスへ)
私の場合には製造業で、受注生産でモノを作っておりました。ですから一般の流通業とは違い、お店を構えて売るわけじゃありません。また、受注生産ですから在庫の負担も要りませんでした。
私は最初、当社みたいにメーカーで、お客さんにそのままストレートに納めていくようなビジネスの場合、どういう流通マージンであればいいのかと考えて、ウ チの営業は売値の10%の粗利をあげましょうと決めました。そして、売値から10%引いたもので製造はモノを作って利益をあげる。というルールを決めまし た。
そのルールでずっとやってきたんですが、カメラや通信の携帯端末、宝石などの販売を始めるようになってから、10%のマージンでは 営業が成り立たないということがわかりました。自分で店を出して、店でモノを売るにしても、また店を置かずに、カメラ販売店で売ってもらうにしても、一般 の大衆商品を売る場合には10%のマージン、粗利では営業は成り立っていかないことが、そのときに初めてわかりました。
たとえば、カメ ラの販売店の支援をする場合、テレビ広告、新聞広告を出しますが、それはメーカーである京セラがしなければなりません。そしてその宣伝広告代は、ウチの営 業の粗利のなかに含まれていなければならない。他にも、カメラの販売店に行って常に販促活動をしなければならないし、インセンティブのお金も出さなきゃな らない。そういういろんなことを考えてみると、コモデティな商品を売るメーカーの営業の場合、これはその営業が最終で売っているんではなく、営業が小売店 に出して、小売店が最終で売っていらっしゃる。その小売店のマージンが30%要った上に、メーカーの営業も25%から30%の粗利がなければ宣伝費が出せ ないんです。
よろしいですか。それをまともに考えてみます。小売店さん、店頭で売られる方が30%ぐらいの粗利がなければ売らんと言わ れる。売値が100円だとすれば、小売店さんに納める値段は70円になります。営業はその70円から、営業の粗利30%を引いた約50円で製造からもらわ なければ採算は合いません。製造から50円でもらって、営業は20円の粗利を取って70円で小売店に納めるわけです。では、売値をなんぼにすればいいのか ということです。
小売店の店頭で、このカメラはいくらという値段がついた場合、製造側はその率でもって下がってきた分で利益を出さなけ ればならないわけですが、今みたいに競争の激しい商品だった場合には、乱売に乱売となっていきます。そうすると、小売店からこの値段でなければならない、 売値はこうでなければならないと言われれば、製造では採算なんか全然合わない。ところが売ってもらおうと思いますから、最先端の小売店から、「どうしても 30%なければ売らん」と言われれば、それは飲まざるを得ないのです。そうすると、メーカーの営業は元々30%の粗利がなければならないと言っていたんだ けれど、それが減って減って10%になってしまう。宣伝広告を出せば一発で営業部門は赤字です。しかも、そうして下げてきた結果、製造側も採算が合わない とい
うことになります。
大メーカーの重役さんのなかに「そういう状況だから、そうなりますねや」と言っている人がもたくさん おられますが、それは値決めではないんです。たしかにお客さんが喜んでくれる値段の最高の値で値決めをするんだけれども、そのあと経費が要るとするなら、 最後の原価をどこまで安くするかということをしなければならないわけです。なのに、原価はもう決まっているものとして、原価と売値の間だけが10%に縮 まってきている。これでは経営が圧迫されるのは当たり前のことです。
たとえば、売値4000円の時計を作るとします。そこから流通マー ジンを全部引けば、元が1000円になったとします。ところが、従来の時計で使っていた水晶振動子はいくら、バッテリーはいくら、と積み重ねていくと、も う材料費だけで元の1000円を超えてしまう。そうすると、ガラッと発想を変えなければならないのです。今まで使っていて水晶振動子を半値で、いや、3分 の1の値段で仕入れるところはないか。バンドも、今まではAとBから買っていたけれど、これを5分の1で買えるところはないかと探し回るわけです。です が、それにも限界があります。そこでVA(バリューアナライシス)が必要になるのです。
今までの足し算でもって、ただ業者を叩いて買え ばいいというのではなしに、叩いていったのでは限界がある。だから、設計そのものを変えなければならない。設計を変えて1000円で作れるように、そして 1000円でも利益が出るような設計に変えようというものがVAです。つまり、その値段で合うように技術屋が設計そのものを変えていかなければならない時 代なのです。ただ単に足し算方式でもって、今までの金額から、叩いて、叩いて業者から安く買ってコストダウンをしようという甘い考えでは、経営は全部赤字 になります。
閉店セールで既存粗利を確保する強者達
商いをするとき、お客さんになるべく安く売ったら売れると直感的に思うわ けです。そして、仕入れてモノを売っておられる場合、「元々粗利は30%なければならん!」と強く思っていない人が大半だと思います。モノによっては 30%取れるけれども、モノによってはそうはいかないと、それを認めていらっしゃる方が大半だと思います。3割取れるものもありますが、モノによっては2 割しか粗利が取れないものもありますという人が大半だと思います。ところが本当に利益を出しているところは、3割の粗利を確保するために非常な努力をされ ているのです。
スーパーや安売りのディスカウント店で、うまくいっている店では、ヨソの2割引きで売っているのに、仕入れも2割叩いて買っている。やっぱり、30%取っているんです。
この前、スーパーで「5%還元セール」というものをやっていました。3割あるマージンから5%吐き出して、25%の粗利で還元セールをしたスーパーもある かと思えば、「ウチは5%消費税還元セールをするから、おまえも5%引け」と仕入先に言って、粗利をちっとも変えずに5%引きで売っているスーパーもある ということです。
また一方では、消費税還元セールで成功したものだから、それに連れて10%引き、10%還元ということをやったり、 20%引きのセールをしてみたところが、売れなくなったと言うんですね。考えてみれば、20%引きというのは、普通のバーゲンセールで全部やっているんで すね。それでもあんなに売れるわけがないのに、5%という消費税還元セールのときは売れたという。だから、安ければ売れるというものじゃないんですね。そ して、後々10%引き、20%引きをやったスーパーはたいへんな苦労をして、マージンは減り、えらいことになってしまったという話を聞いています。
もうひとつあります。百貨店がうまくいかなくなり、閉店セールというものをやっているところがありますね。何日も閉店セールをやって、一杯お客さんが並ん で、毎日毎日黒山の人だかりで買われる。ところが、閉店セールだから売り切れがあるはずなのに、あれはないんですね。そして、百貨店始まって以来の売上だ と言っておられる。
普通に考えれば、閉店セールだというので、半値だとか4割引だとか、ベラボウに安い値段で売っているんですから、品 切れになって「これでもうありません」となるのになと思うのに、いつまでも続いている。不思議だなあと思っていたら、あれは全部メーカーに背負わせてい て、粗利は元のままだったらしいですね。そういう点からも、商業資本が強くて産業資本が弱いということが言えますね。
値決めは経営トップの仕事
値決めというのは非常に大事です。値決めと仕入れとは連動しています。値決めと製造のコストダウンとは連動しているんですね。「値決めは経営なり」と言っ ていますが、それは値決めだけが独立しているのではありません。値決めが経営の本質であり、値決めで経営が決まるのであれば、その責任として仕入れにも責 任を持ち、製造のコストダウンにも責任を持ちますよということなんです。つまり、トップの社長でなければコストダウンの指示もできませんし、安く仕入れる こともできません。それを資材の担当に任せたり、製造の連中にただ安くものを作ってくれ、コストダウンをしてくれと言う程度では、値段のほうが先に下がっ ていきますから、たちまちに赤字経営になってしまいます。
値決めをするときには、値決めを決める瞬間に、もう製造のコストダウンを考え ていなければなりませんし、その製造のコストダウンが頭のなかにあるから値決めができるわけです。また、値決めを決める瞬間に、「あのメーカーとこう交渉 して、この値段にしてもらおう」という戦略戦術が取れるから値決めができるわけです。そういうところまで頭がまわらないような営業の一担当者に値決めをさ せたのでは、とんでもないことになります。
革新的コストダウンを図るのが技術屋の任務
私は値決めということについて、今まで たいへん力を入れてきました。そして製造業なものですから、会社を始めてしばらくした頃、私自身を含めて「新しい技術開発をするのが技術屋の仕事だと思う かもしれないが、そうじゃありません。技術屋というのは、どうしてコストを下げるかということを考えるのが技術屋だ」というふうに位置付けました。
モノを作っていくときには、とにかくチマチマ作って少しでも安くしていくというような製造ではありません。ガラッと変えていくんです。今まで100円の原 料で作っていたが、5円の原料でモノが作れないかと考えて、そしてそれを見付け出す、考えつく、研究するのが技術屋なんです。大発明、大発見をするのが技 術屋ではありません。とことん原価を安くして作ることを考えつく。世界中のみんなが100円の原料で作っているのなら、私は5円の原料でそれと同じものを 作ろうと考えて、それを見付け出す。それが技術屋の任務です。
「製造原価をどう安く作るかということが技術屋の任務です」と位置付けた わけです。象牙の塔にこもったような、研究所にこもったような技術屋は必要ない。どこよりも、途轍もない安い値段でモノを作ることを考えつくのが優秀な技 術屋だと位置付けて、そういうふうにウチの技術陣にハッパをかけてきました。つまり、そういうことと値決めとが連動していかなければならないのです。
盛和塾のなかでも、薄利でもって商売がうまくいくと思って、商売を始めたけれども、売上げが増えてきたにも関わらず悪戦苦闘しておられる方があります。そ してちょっとした引っかかりで、売った相手先が倒産でもすると、その被りでもって本体が揺れておられる。薄利でいくとお考えになったのはいいかもしれない んですけれども、それは値決めがおかしいんですよ。たしかにその値段であったら売れるかもしれませんが、その値決めでは経営は安定しないんです。つまり、 値決めによって経営がうまくいっていないというケースをよくお聞きするわけです。
もちろん、値決めが大事だと言いましたけれども、すで に売っておられるもの、同業者のあるものを、値決めが失敗したからといって値段を上げたら、なお失敗するわけですからね。そんなバカなことはできません。 ですから、どうしてもマージンが取れないものであれば、そういうものは扱わない。新製品を見つけるんです。仕入商品でも新商品を仕入れるんです。
京セラでは、30年も40年も前から原価+利益=売値という原価主義はとらないと言い始めました。そのとき、社員にはこう言いました。
京セラは、原価+利潤(利益)というような原価主義で販売価格は決めません。京セラは販売する品物の価値で売ります。
原価がいくらであろうと、そのモノに価値がなければ、その値段で売れるはずがありません。
たとえば、ウチが作る絶縁材料で、お客さんがある真空管をお作りになる。お客さんは、ウチの絶縁材料を使って良い真空管をお作りになり、それが1本200 円で売れていた。お客さんはウチの絶縁材料を20円という値段で買っているんだけれども、200円で売れるんだから非常に儲ると喜んでおられる。それはつ まり、ウチの絶縁材料があることによって、真空管の価値が高まっていることになる。
その真空管を作っている大きな部品としての絶縁材料、セラ ミックはいくらの価値で買ってくれますかと訊いたとき、お客さんが「20円だったら喜んで買いますよ」と言ってくれるのであれば、20円で売ろうじゃない か。実際には原価が5円であろうと2円であろうと、20円で売ろうじゃないか。
「いや、社長。5円のものを20円で売るなんて暴利じゃありませんか」と言うかもしれないが、そうではないんだ。お客さんが20円の価値があると言っておられるであって、それでいいんだよ。
たとえばお菓子屋さんであっても、自分で考えて新製品を開発した、新しい和菓子を作った。その値決めはどうすればいいのかというと、その値段は価値で売れ ばいいんだ。この和菓子は味もいいし、形もいいし、素晴らしい。200円でもいいわと言って買ってくれるものであれば、たとえその原価が40円であろう と、200円でいい。原価+利益という考え方をして、原価が40円で利益を10円取るから50円で売ろうなんてことはする必要はない。
ただし、普通の破れ饅頭みたいなものを作って、他で50円で売っているものを200円で売っても、これは売れるわけがない。同業者が同じようなものを作っているのなら、50円なら50円で売らなければならないんだ。
つまり、新しい創意工夫をして自分でやったもの、新製品の場合には、値決めは価値で売りましょう。お客がいくら払ってくれるかという価値で売りましょうということです。
つまり、お客さんがその価値を認めてくれるのであれば、その価値で売るわけです。お客さんが価値を認めてくれるということは、お客さんもそれを使うことによって儲っておられるわけですから、決して暴利でも何でもありません。
もちろん新製品の場合でも、たとえばその原価に200円かかったのだから、40円の利益を乗せて240円で売ろうと思っても、お客さんから「240円なん かでは到底使えません。それは50円だ」と言われれば、50円しか価値がないわけです。50円しか価値のないものを200円もかけて作った、それは我々技 術屋の失敗です。原価がいくらですといくら言ってみたって、それは世間に通用するものではありません。
値決めとは、原価主義で決まって くるのではありません。マーケットが認めてくれる値段、それが先行するのです。その売値で利益をどう出すかというのが経営なんです。値決めを軽視して、非 常に安い値決めをしてしまったために、夜も寝ずに苦労しても利益が出ないというのではたいへんな失敗です。また、高い値段に決めれば、いくら一生懸命売ろ うと思っても売れない、あまり数が売れない値段を決めてしまっても失敗です。
流通業の値決めは粗利を考えて
流通業の場合、モ ノを仕入れて売るには、同業他社よりも少しでも安くなければ売れないのですから、同じ品物であれば同業者よりも少しでも安く売ろうと競争がはじまります。 しかしながら、安くすれば売れるわけですから10%安くして売ったけれども、いったい粗利はいくら残っているのかということです。
ご承 知だと思うんですが、スーパー等の流通業をする場合には、どのくらいの粗利が要るのかということを知らない人が多いんですね。たとえば、100円で仕入れ てきたものがあるとします。他ではそれを130円で売っている。では、オレは120円で売ろう、10円安くしたら売れるだろう、いや、115円なら売れる だろうというので値決めをされる人がよくおられます。しかし、たしかにその値段で売れるんだけれども、経営がなかなかうまくいかない、火の車になるという ことです。
これは、どのくらいの粗利がなければ会社がまわらないのかという常識がないケースです。同業他社を見て、そこよりも安く売れば売れるだろう、値決めが少し安ければいいというだけの感覚で売っているわけです。
普通一般的に、小売りの流通業では粗利が30%なければならないといわれていますね。ですから、非常に安い値段で売っているお店でも、売値の3割引ぐらい の値段で仕入れていると思います。つまり、もし7、8%ぐらいの利益、または10%弱の税引き前利益をあげようと思えば、宣伝広告費、販売管理費、本社経 費、金利、人件費等々、全部計上すれば20%ぐらいの経費がかかるということを、みんな知っているわけです。
ところが素人で、仕入れて売るだけ で2割も粗利があれば結構なことですからと、2割しかないマージンのところへさらに値引きをして、5%の値引きをして、15%の粗利しかない商売をされる と、こんなに頑張っているのにうまくいかない、儲からないとなります。それは値決めが失敗しているんです。それは、そのくらいマージンが要るということで す。
製造業こそ高収益を(商業資本が産業資本よりも強い理由)
右から左へ仕入れて売るだけでも、粗利が30%なければ採算は合わないんです。 しかし、製造業なのに利益がわずか5%、3%しか出ていないという製造業の方がたくさんいるわけです。私は京セラの製造の連中によく言ったものです。
あのね、仕入れて右から左へ売るだけの人たちが3割ほどの粗利を乗せて売っておられる。我々は頭を使って、機械を使って設計をし、技術屋を何人も抱えて、 無から有を作り上げている。なのに、その利益が3%というのは、おまえ、おかしいと思わないか。我々はそんなに価値のないことをしているのかよ。右から左 へ流すだけで粗利が3割あるというのなら、何にもないところからモノを作り上げていかなければならない製造業であれば、粗利は5割ぐらいあってもおかしく ないではないか。流通で3割もあるというんだから、製造だったら5割ぐらいあってもおかしくないんと違うか。
ところが、製造業で粗利が5割もある会社なんて、どこにもないんです。
考えてみますと、資本主義の発達は、まず最初に商業資本が興ってくるんですね。そしてその商業資本は、右から左へ流すだけで暴利をむさぼってきているんです。
人類は最初、野山を駆けめぐって狩猟採集をしておりました。それがだんだん知恵がついてきて、定住するようになり、一個所に住むようになると、そこでいろ んなものを栽培しだします。畑を作り、その収穫でもって家族を養っていこうというふうに、狩猟採集をから農耕に変わっていくわけです。
農耕によ り、貯えが始まれば、知恵のある奴が出てきて、苦労する農業はしないで、余っているアワを安く仕入れて、アワが足りないところに担いでいって高く売ろうと 考えつく奴が出てきたわけです。つまり、地理的な移動をすることによってモノに価値ができる、豊富なところから少ないところに持っていけば高く売れる。そ れが商業資本の始まりなんです。
アワを仕入れて売りますから、商業資本の人はなるべく安く叩いて仕入れて、なるべく高く売ろうとしま す。つまり、農業をやっている人は買い叩かれるわけです。ですからこんにちまで商業資本が強くて、産業資本は弱いんです。本当なら製造メーカーのほうが技 術も使い、何もかも使うんですから、うんと利益率が高くなければならんのに、弱いものだから、実際には流通のほうが利益率が高くて、製造は少ないというふ うになってきたんですね。
私は皆さんに、「税引き前利益10%出ないような仕事をするなら、もう辞めなさい」と言って、いつもハッパをかけているのには理由があるんです。京セラの製造の連中には、こういうふうに言っておりました。
銀行金利でも、普通のときなら6%、7%、8%する。お金というのは人に貸せば、何にもせんでも6%、7%もの金利を稼いでくる。我々は失敗すれば大きな損をするかもしれない事業をやって、2%か3%しか利益が出ていない。それではワリが合わないじゃありませんかよ。
ただお金を泳がせて、鵜飼いの鵜匠みたいにお金を動かして、自分達は何も苦労しないで高いびきで寝ている。それでも、お金がまたお金を食わえて帰ってく る。それに較べて、我々はこれだけの苦労をしているのだから、もっと利益率が高くてもおかしくはないじゃありませんかよ。
もうひとつの理由は、先ほどの流通資本の話です。「品物を仕入れて、右から左へ売っても粗利が30%もある。我々の製造業であれば、もっと利益率があってもおかしくないじゃありませんか」。そう言ってハッパをかけて、利益率を高めていくようにしていったわけです。
コストダウンの考え方をガラリと変える(足し算からバリューアナライシスへ)
私の場合には製造業で、受注生産でモノを作っておりました。ですから一般の流通業とは違い、お店を構えて売るわけじゃありません。また、受注生産ですから在庫の負担も要りませんでした。
私は最初、当社みたいにメーカーで、お客さんにそのままストレートに納めていくようなビジネスの場合、どういう流通マージンであればいいのかと考えて、ウ チの営業は売値の10%の粗利をあげましょうと決めました。そして、売値から10%引いたもので製造はモノを作って利益をあげる。というルールを決めまし た。
そのルールでずっとやってきたんですが、カメラや通信の携帯端末、宝石などの販売を始めるようになってから、10%のマージンでは 営業が成り立たないということがわかりました。自分で店を出して、店でモノを売るにしても、また店を置かずに、カメラ販売店で売ってもらうにしても、一般 の大衆商品を売る場合には10%のマージン、粗利では営業は成り立っていかないことが、そのときに初めてわかりました。
たとえば、カメ ラの販売店の支援をする場合、テレビ広告、新聞広告を出しますが、それはメーカーである京セラがしなければなりません。そしてその宣伝広告代は、ウチの営 業の粗利のなかに含まれていなければならない。他にも、カメラの販売店に行って常に販促活動をしなければならないし、インセンティブのお金も出さなきゃな らない。そういういろんなことを考えてみると、コモデティな商品を売るメーカーの営業の場合、これはその営業が最終で売っているんではなく、営業が小売店 に出して、小売店が最終で売っていらっしゃる。その小売店のマージンが30%要った上に、メーカーの営業も25%から30%の粗利がなければ宣伝費が出せ ないんです。
よろしいですか。それをまともに考えてみます。小売店さん、店頭で売られる方が30%ぐらいの粗利がなければ売らんと言わ れる。売値が100円だとすれば、小売店さんに納める値段は70円になります。営業はその70円から、営業の粗利30%を引いた約50円で製造からもらわ なければ採算は合いません。製造から50円でもらって、営業は20円の粗利を取って70円で小売店に納めるわけです。では、売値をなんぼにすればいいのか ということです。
小売店の店頭で、このカメラはいくらという値段がついた場合、製造側はその率でもって下がってきた分で利益を出さなけ ればならないわけですが、今みたいに競争の激しい商品だった場合には、乱売に乱売となっていきます。そうすると、小売店からこの値段でなければならない、 売値はこうでなければならないと言われれば、製造では採算なんか全然合わない。ところが売ってもらおうと思いますから、最先端の小売店から、「どうしても 30%なければ売らん」と言われれば、それは飲まざるを得ないのです。そうすると、メーカーの営業は元々30%の粗利がなければならないと言っていたんだ けれど、それが減って減って10%になってしまう。宣伝広告を出せば一発で営業部門は赤字です。しかも、そうして下げてきた結果、製造側も採算が合わない とい
うことになります。
大メーカーの重役さんのなかに「そういう状況だから、そうなりますねや」と言っている人がもたくさん おられますが、それは値決めではないんです。たしかにお客さんが喜んでくれる値段の最高の値で値決めをするんだけれども、そのあと経費が要るとするなら、 最後の原価をどこまで安くするかということをしなければならないわけです。なのに、原価はもう決まっているものとして、原価と売値の間だけが10%に縮 まってきている。これでは経営が圧迫されるのは当たり前のことです。
たとえば、売値4000円の時計を作るとします。そこから流通マー ジンを全部引けば、元が1000円になったとします。ところが、従来の時計で使っていた水晶振動子はいくら、バッテリーはいくら、と積み重ねていくと、も う材料費だけで元の1000円を超えてしまう。そうすると、ガラッと発想を変えなければならないのです。今まで使っていて水晶振動子を半値で、いや、3分 の1の値段で仕入れるところはないか。バンドも、今まではAとBから買っていたけれど、これを5分の1で買えるところはないかと探し回るわけです。です が、それにも限界があります。そこでVA(バリューアナライシス)が必要になるのです。
今までの足し算でもって、ただ業者を叩いて買え ばいいというのではなしに、叩いていったのでは限界がある。だから、設計そのものを変えなければならない。設計を変えて1000円で作れるように、そして 1000円でも利益が出るような設計に変えようというものがVAです。つまり、その値段で合うように技術屋が設計そのものを変えていかなければならない時 代なのです。ただ単に足し算方式でもって、今までの金額から、叩いて、叩いて業者から安く買ってコストダウンをしようという甘い考えでは、経営は全部赤字 になります。
閉店セールで既存粗利を確保する強者達
商いをするとき、お客さんになるべく安く売ったら売れると直感的に思うわ けです。そして、仕入れてモノを売っておられる場合、「元々粗利は30%なければならん!」と強く思っていない人が大半だと思います。モノによっては 30%取れるけれども、モノによってはそうはいかないと、それを認めていらっしゃる方が大半だと思います。3割取れるものもありますが、モノによっては2 割しか粗利が取れないものもありますという人が大半だと思います。ところが本当に利益を出しているところは、3割の粗利を確保するために非常な努力をされ ているのです。
スーパーや安売りのディスカウント店で、うまくいっている店では、ヨソの2割引きで売っているのに、仕入れも2割叩いて買っている。やっぱり、30%取っているんです。
この前、スーパーで「5%還元セール」というものをやっていました。3割あるマージンから5%吐き出して、25%の粗利で還元セールをしたスーパーもある かと思えば、「ウチは5%消費税還元セールをするから、おまえも5%引け」と仕入先に言って、粗利をちっとも変えずに5%引きで売っているスーパーもある ということです。
また一方では、消費税還元セールで成功したものだから、それに連れて10%引き、10%還元ということをやったり、 20%引きのセールをしてみたところが、売れなくなったと言うんですね。考えてみれば、20%引きというのは、普通のバーゲンセールで全部やっているんで すね。それでもあんなに売れるわけがないのに、5%という消費税還元セールのときは売れたという。だから、安ければ売れるというものじゃないんですね。そ して、後々10%引き、20%引きをやったスーパーはたいへんな苦労をして、マージンは減り、えらいことになってしまったという話を聞いています。
もうひとつあります。百貨店がうまくいかなくなり、閉店セールというものをやっているところがありますね。何日も閉店セールをやって、一杯お客さんが並ん で、毎日毎日黒山の人だかりで買われる。ところが、閉店セールだから売り切れがあるはずなのに、あれはないんですね。そして、百貨店始まって以来の売上だ と言っておられる。
普通に考えれば、閉店セールだというので、半値だとか4割引だとか、ベラボウに安い値段で売っているんですから、品 切れになって「これでもうありません」となるのになと思うのに、いつまでも続いている。不思議だなあと思っていたら、あれは全部メーカーに背負わせてい て、粗利は元のままだったらしいですね。そういう点からも、商業資本が強くて産業資本が弱いということが言えますね。
値決めは経営トップの仕事
値決めというのは非常に大事です。値決めと仕入れとは連動しています。値決めと製造のコストダウンとは連動しているんですね。「値決めは経営なり」と言っ ていますが、それは値決めだけが独立しているのではありません。値決めが経営の本質であり、値決めで経営が決まるのであれば、その責任として仕入れにも責 任を持ち、製造のコストダウンにも責任を持ちますよということなんです。つまり、トップの社長でなければコストダウンの指示もできませんし、安く仕入れる こともできません。それを資材の担当に任せたり、製造の連中にただ安くものを作ってくれ、コストダウンをしてくれと言う程度では、値段のほうが先に下がっ ていきますから、たちまちに赤字経営になってしまいます。
値決めをするときには、値決めを決める瞬間に、もう製造のコストダウンを考え ていなければなりませんし、その製造のコストダウンが頭のなかにあるから値決めができるわけです。また、値決めを決める瞬間に、「あのメーカーとこう交渉 して、この値段にしてもらおう」という戦略戦術が取れるから値決めができるわけです。そういうところまで頭がまわらないような営業の一担当者に値決めをさ せたのでは、とんでもないことになります。
革新的コストダウンを図るのが技術屋の任務
私は値決めということについて、今まで たいへん力を入れてきました。そして製造業なものですから、会社を始めてしばらくした頃、私自身を含めて「新しい技術開発をするのが技術屋の仕事だと思う かもしれないが、そうじゃありません。技術屋というのは、どうしてコストを下げるかということを考えるのが技術屋だ」というふうに位置付けました。
モノを作っていくときには、とにかくチマチマ作って少しでも安くしていくというような製造ではありません。ガラッと変えていくんです。今まで100円の原 料で作っていたが、5円の原料でモノが作れないかと考えて、そしてそれを見付け出す、考えつく、研究するのが技術屋なんです。大発明、大発見をするのが技 術屋ではありません。とことん原価を安くして作ることを考えつく。世界中のみんなが100円の原料で作っているのなら、私は5円の原料でそれと同じものを 作ろうと考えて、それを見付け出す。それが技術屋の任務です。
「製造原価をどう安く作るかということが技術屋の任務です」と位置付けた わけです。象牙の塔にこもったような、研究所にこもったような技術屋は必要ない。どこよりも、途轍もない安い値段でモノを作ることを考えつくのが優秀な技 術屋だと位置付けて、そういうふうにウチの技術陣にハッパをかけてきました。つまり、そういうことと値決めとが連動していかなければならないのです。
盛和塾のなかでも、薄利でもって商売がうまくいくと思って、商売を始めたけれども、売上げが増えてきたにも関わらず悪戦苦闘しておられる方があります。そ してちょっとした引っかかりで、売った相手先が倒産でもすると、その被りでもって本体が揺れておられる。薄利でいくとお考えになったのはいいかもしれない んですけれども、それは値決めがおかしいんですよ。たしかにその値段であったら売れるかもしれませんが、その値決めでは経営は安定しないんです。つまり、 値決めによって経営がうまくいっていないというケースをよくお聞きするわけです。
もちろん、値決めが大事だと言いましたけれども、すで に売っておられるもの、同業者のあるものを、値決めが失敗したからといって値段を上げたら、なお失敗するわけですからね。そんなバカなことはできません。 ですから、どうしてもマージンが取れないものであれば、そういうものは扱わない。新製品を見つけるんです。仕入商品でも新商品を仕入れるんです。
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