養生訓  巻第七

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巻第七

用薬

1 薬と病状

人の体は、病気にかからないとはいえない。病気になったら医者を呼んで治療を求める。医者には、上中下の3種がある。上医は知識と技術を持っており、これによって病気を治療する。上医は、この世界の宝であり、その功績は宰相につぐものだ。
下医は、知識も技術も持っていない。それゆえに、むやみに投薬して誤診することが多い。薬というものは、人のバランスを崩す。バランスが崩れることにより、病気を治療する。もし薬が病気にあっていなければ、薬は毒になってしまう。
中医は、知識や技術で上医におよばないが、薬をむやみに使用することがいけないことを知っている。それゆえ、病気にあわない薬を投薬することはない。中医は自分の知らない病気に対しては、治療できないし、しないのである。
病気にかかったときは、すぐに治療して楽になりたいが、医者の善し悪しを考えずに治療を受けると、逆に悪くなることがある。悪い医者にかかるくらいなら、自然に治るのを待つ方がいい。

2 薬の濫用は危険

薬を、意味なく使うと体の調子を崩し病気になってしまう。

3 庸医の薬

病気にかかっても、名医がいないときは薬を飲まず、ただ病気が治るのをまつべきだ。早く病気を治したいと思って、医者を選ばないのはよくない。
悪い医者は、病気にあう薬を出すことはまれである。
薬は、体の調子を変える性質がある。それで病気を治療するのであるが、病気にあわない薬を服用したら治るどころか悪くなってしまう。病気の害よりも薬の害のほうが大きくなってしまう。薬を用いないで、慎重に養生すれば薬の害を受けずにすみ、病気も早く治るであろう。

4 良医の投薬

良医が薬を使用するときは、病人の症状をみて臨機応変にその時によい薬を使う。一つの方法にとらわれない。古い考えを、かたくなに信じてはいない。
とはいえ基本をしっかりとらえないと臨機応変に対応できない。古い考えもよく、しっていることも重要である。温故知新と言う言葉のように。

5 補薬より食補を

胃腸を整えておくには、ふつうの食事をしていればいい。薬を常用していてはいけない。たとえ高価な薬であっても、病気にあわなければ胃に負担をかけるし、 食欲もなくし、病気にもなる。強力な効果を持つ薬は、人の体にも負担が大きい。病気でないなら、薬を使う必要はない。ふつうの食事のほうが、いい。

6 自然治療

薬を飲まなくても自然に治る病気は多い。これを知らず、むやみに薬を使い、かえって病気を悪くし、食欲をなくし、病気が治らずに死んでしまうものが多い。薬を使うのは慎重にしないといけない。

7 病気のはじめと良医

病気にかかったときは、始めにその病気の症状を詳しく知る必要がある。診断をして正しく病気の症状がわかるまでは、薬を使用してはいけない。間違った薬を使用すると、病気を悪くすることがある。最初に正しく診断することが大事である。それも早い時期にするのがよい。

8 衛生の道ありて長生きの薬なし

生まれもっている寿命を延ばすための薬というものはない。長生きの薬として、使われているものには効果はない。かえって体を悪くする。養生とは、生まれもった寿命を保つことである。(将来、本物の長生きの薬はできるかも知れない。それまで長生きしていたいものです。)

9 薬の良否

薬屋にある薬にも、善し悪しもあるし、本物も偽物もあるから注意しないといけない。さらに薬の製法で、おなじ薬であっても違う性質になる。また、人によって薬の効果が違うこともあるので、気を使う必要がある。
土地や季節によって食事の味が違うように、人や症状や時期によって薬の調合を変えることが大事である。

10 薬の煎じ方

どのような珍味でも、調理の方法が悪いと味はよくない。どれだけよい薬であっても、その調合が悪いと効き目がない。
新鮮な薬の材料を、短時間に、ちょうどいい温度の火で煎じるのがいい。
滋養強壮的(栄養剤?)なものは、十分に熟したものを長く、低めの温度で煎じる。

11 薬量

薬剤の量は、日本人の体型に合わせて中国の医学書を参考にして決める。
中国の人は、日本人より壮健で胃腸が強いので、薬の量は中国の人よりも少ないほうがいい。
日本には中国のように薬の材料が多くなく、輸入しているものなども多いので価格が高くなる。それゆえに、薬の量を少な目にしている。
日本の医者は中国の医者よりも劣るので、誤診したときに多くの薬を服用させていると問題である。それゆえに少な目にしている。
などと言われて、日本の薬剤の量は中国のものよりも少な目になっている。

12 日本人と中国人

日本人は、中国人のように壮健で胃腸も強くないので、薬を少なく服用するのがいい。とは言っても、体型はそれほど違わないのだから、薬の量が半分もないというのは少しおかしい。栄養剤のようなものも、量が少なければ効くものも効かない。
また病気の症状が重いときは、少ない薬ではいけない。一杯の水で、おおきな火事を消すことができないのと、同じである。
砒素の毒は、3.75グラム服用すれば死んでしまう。しかし、これより少なければ死なない。フグも、多く食べなければ死なない。強い毒でも少なければ、効き目は少ない。まして効果の弱い薬を少なく服用して病気が治るであろうか。
現代(貝原益軒の生きていた時代)の医者は、病気にあった薬を使用するが、早く治らないときは、薬の量が少ないためではないだろうか。(今は薬の量はとても多くて、必要以上に薬を使っているように思う。)

13 利薬の分量

あまり科学的ではないが、強い薬の一服の分量は5.6グラムから7.5グラムくらいがいいと思う。その間の増減は病気の人の体格や体力で決めればいい。

14 補薬の量

滋養強壮剤の一服の分量は、3,75グラムから5.6グラムくらいがいい。のどを通りにくい時は、すこし減らしてもいい。薬と滋養の二面性のあるものは、4.5グラムから6.7グラムぐらいがいい。これも人の体格や体力で増減させればいい。

15 婦人の薬量

婦人の薬療は、男性より少な目でいい。強い薬は4.5グラムから6.7グラム、滋養強壮剤の場合は、3.75グラムから5.6グラムくらいがいい。気力、体力とも強い人は、これよりも多く服用する。

16 小児の薬量

小児の薬の量は、1.8グラムから3.75グラムまででよい。これも子供の身体の大小によって増減すればいい。

17 薬を煎じる水量

大人の、強く効く薬を煎じるとき、水は一服の量に対して309グラムから337.5グラムを用いる。あるいは強い火力で煎じるときは、206グラムから225グラムの水で煎じ、それを二回に分けて服用する。かすは、捨てること。二度、煎じてはいけない。
病気が重いときは、朝夕に二回かそれ以上でもいい。高熱がありのどが渇く病気には、その症状に合わせて多く服用してもいい。
滋養強壮剤を煎じるには、187.5グラムから206グラムの水でいい。一服の量の大小で増減を決めればいい。虚弱体質の人は、少な目の水で煎じるといい。
体質的に強い人は、一服に400グラムの水で煎じ、それが半分の量になるまで弱い火で煎じる。かすは200グラムの水で煎じ、それも半分になるまで煎じ る。それらをあわせて250グラムになったものを、胸につかえないように少しずつ服用する。空腹時に熱くさせ(滋養強壮剤の温度を上げるのか、体温を上げ るのか不明?たぶん前者だと思う)3,4回にわけて服用する。また栄養剤は、一日に一服。もし、飲みにくいのらな、昼間に二度飲めばいい。日が短い時期 は、病人の症状を決めて回数を決めればいい。また飲みにくいことがない人は、それ以上服用してもかまわない。しかし、食もたれしているときは服用してはい けない。

18 補薬の使用法

滋養強壮剤は、胃もたれになりやすい。そうなっては、害になるだけである。強い効果の薬を飲むときは、注意しなければいけない。一回の服用する量が多い と、血流が悪くなるときは少なく服用する。人参や甘草(マメ科の多年草で鎮痛・鎮咳に効果がある)、オケラ(キク科の多年草、根が健胃薬)などは飲みにく い。そんなときは利尿・強壮剤をとらずに、生姜(食用・香辛料、健胃剤・鎮嘔剤)やクス科の植物(どのような植物か調査中?)を多くとればいい。
病気によっては、トリカブトの根を乾かした生薬(いくくすり、起死回生の薬)・肉桂(クスノキ科の常緑高木、香辛料・健胃薬・矯味矯臭薬になる。)を少し 加え、升麻(「うたかぐさ」、ウマノアシガタ科、根茎を解熱、解毒に用う)・柴胡(「さいこ」、セリ科、根を解熱に用う)を取り除いて、肉桂と生姜を加え ることもある。そうすると、滋養強壮剤の効果がよくなる。
虚弱体質な人や、熱のない病気のときには薬の効きをよくするために、1.9グラムから3.75グラムくらい加えるといい。もちろん病状によってである。健康な人には使わないのがいい。

19 身体の大小と薬量

身体が小さく胃腸も小さくて虚弱な人には、薬の量は少なくていい。少ないといっても3.75グラムより少ないのもよくない。逆に体格もよく胃腸も強い人には多くてもいい。

20 小児の利薬・補薬の煎じ方

小児の薬は、187グラムから206グラムくらいの水で煎じたものがいいい。よく効く薬の場合は、7分間煎じ2,3度に分けて服用する。かすはすてる。栄養補強剤は281グラムから309グラムの水で煎じ、その量が半分になるまで煎じて使うといい。

21 時宜にかなった服薬

中国の父母の喪は、必ず3年である。日本は古い朝廷(いつの朝廷かは調査中?多分、室町時代以前だと思う。)の時代に喪は1年と定められた。それは、日本人は気力、胃腸が中国人より弱いためである。それは、理にかなったことである。
しかし日本人であるのにもかかわらず、喪を三年するものがある。すると、多くのものが病気になり死んでしまった。死んでしまっては父母に対して不孝である。
これと同じように、薬の使用量も日本の風土にあわせ、中国の半分でいい。一回の使用量は、3.75グラムから7.5グラムくらいでいい。病人の症状、体力によって増減すればいい。決められたことを守るよりも、状況をよく考え患者と接するのが大事である。

22 日本人の薬量

今まで述べてきたような薬の分量、水の量を医学生でない私(貝原 益軒)が言っているのは軽率で僭越だと言われるが、いまの日本人の体格や体力を思うとこれでいいと思う。識者は、古今を考えて薬療の効果の強弱、量の大小 を定めてもらいたい。(現在も同じことがいえるだろう。現在の薬学の専門の人のいうことを聞いたほうがいいかもしれないが、自分にあった薬を、本当に考え てくれる医者に任せた方がいいのかもしれない。)

23 煎薬と四味

煎じ薬に加える、香味料がある。甘草(マメ科の多年草で鎮痛・鎮咳に効果がある)は、毒素を消し、胃腸を助ける。生姜は薬の効果を全身に早く導き、胃の負 担を減らす。棗(食用・強壮剤)は、元気を補い胃を丈夫にする。白ねぎ?は、寒さや風を防ぐ。灯心草(「とうしみそう」、イ草科の植物)は利尿によく効 き、(何のだろう?、多分、下腹だと思う。)腫れをとる。

24 泡薬の使用法

今日(貝原 益軒の時代)、医者の間に泡薬の法がある。薬剤を煎じないで、煮えたった湯にひたすのである。(紅茶のティーパックのように?)世間で使う振薬(次の25 章を参照)ではない。振薬よりも優れている。その方法は、薬剤を細かくきざみ、目の細かいふるいをかけて、残ったものをさらに細かくきざんで粗粉(つくり あがらないもの、まだ完成品ではない)をつくる。布に薬袋をひらいてきざんだ薬を入れて、湯煎したお椀に薬袋を入れて、その上に沸騰した湯を少しそそい で、薬袋をうらがえし、そしてもう一度沸騰した湯を少しそそぐ。熱湯は二回でお椀の半分くらいでいい。薬液が自然にしみ出してくるのをまつ。しぼりだして はいけない。蓋をして、しばらく待つ。長いと、薬液が出過ぎて効力がなくなる。ほどよく薬液がでて、熱湯が少し冷めて温かいうちに飲むのがいい。このよう に二度ひたして二度にわけて飲む。そのときのかすは捨てる。袋のかすをしぼってはいけない。薬液が濁ってよくない。しかし、薬の効果は強くなるから強く効 く薬が必要ならいい。外傷からの病気、食中たり、腹痛、日射病などの病気には、熱湯をそそぐよりもいい。振薬は用いてはいけない。薬汁が早く薬力が強くな るからである。茶を沸騰した湯にひたして、そのはじめのものを飲めば、茶の成分が濃く味もよい。長く煎じると茶のよさも味も悪くなるのと同じである。

25 振薬の法

振薬とは、薬を袋に入れ熱湯につけて、はしではさみつけ、しきりに振り動かし、薬汁を出して服用する方法である。自然にしみ出して出来たものでないので、 薬湯は濁って薬の力がすぐに発揮できない。滋養強壮剤は、通常の煎じ方で十分に煎じるのがいい。泡薬(前の24章を参照)にしないほうがいい。いずれにし ても、煎じた薬を入れる袋の目はきめ細かい方がいい。中国には泡薬のことを記したものはないが、今の時代にあっているのなら、病状しだいで臨機応変に使っ てもいい。

26 補薬と利薬

滋養強壮剤または栄養剤は、長く煎じると人の身体に吸収されやすくなるのでいい。また強い効き目の薬は、薬剤の成分を壊さないように生のままがいい。

27 補薬の飲み方

滋養強壮剤は、煎じた湯が温かいうちに少しずつ飲めば飲みやすい。少しずつ飲んでゆるやかに効果を得ればいい。一時に多くを服用してはいけない。服用する ときは、酒や食事を多くとってはいけない。また消化の悪いものもいけない。薬の効果が薄れるし食欲がなくなると、病気が重くなる。節制が必要である。
良医は、滋養強壮剤などの使い方が上手である。やぶ医者は、使い方が下手で効果がないばかりが害になる。古い時代の人たちは、滋養強壮剤と同時に薬を服用 させていた。薬の力で体の悪いところがなくなるので、滋養強壮剤が体に吸収されやすい。薬を併用しなければ吸収されにくく、かえって害になると、古い時代 の人たちは言っていた。(現在は気軽に滋養強壮剤を使用しているが、本当に体のためになっているのかは疑問だ)

28 利薬の飲み方

よく効く薬は、強い火で煎じ多く飲んで早く効果を上げるのがいい。

29 丸薬と散薬と煎湯と泡薬と

およそ丸薬は、性質がもっとも穏やかで、その効きめはおそい。胃腸の最後まで薬がとけずに届くから、胃腸の消化不良を治す。散薬は細かな粉薬で、丸薬より も早く効果がある。しかし特異な循環系統には効果がいきにくい。上部の胃腸の病気に効果がある。湯で煎じた薬はさらに早く効く。上中下、胃腸、特異な循環 系統によく効く。泡薬は、さらによく効く。外傷からの病気、日射病、食中たり、腹痛のさい服用するといい。

30 薬の服用

病気が身体の上部にあるならば、食後の少しずつ服用し多く飲んではいけない。中部にあるときは、食後一定の時間に服用する。下部にあるときは空腹時に何度 も多く飲んで、下部まで薬がいくようにする。手足・血管の病気のときは、日中の空腹時に服用するといい。骨髄の病気のときは、食後、夜に服用するといい。 もし、薬が飲みにくく逆流するようなら、少しずつゆっくりと飲めばいい。急に多くを飲んではいけない。

31 薬を煎じる人

薬を煎じるときは、焼き物の鍋を使う。また煎じる人は、そそっかしい者にやらせてはいけない。

32 薬湯・丸薬・散薬の用い方

薬を服用して五臓・手足まで効かすには、薬湯を用い、胃の中に留めおくには散薬を用い、胃腸の奥の病気には丸薬を用いるのがいい。急速な病気には薬湯、ゆ るやかな病気には散薬、もっともゆるやかな病気には丸薬がいい。食中たり、腹痛などの急病には薬を煎じた湯がいい。または散薬もいい。丸薬は効きめが遅い ので、使用するなら細かくくだいて使うといい。

33 中国と日本との薬剤調合

中国の医書の中の薬剤の分量を書いたものをみると、一回の服用する量がとても多い。煎じて使う薬も水の量がとても少ない。それで、とても濃い。ものによっては一回の服用する量が日本の10回分のものもある。

34 中国と朝鮮の煎法

朝鮮の煎じ方も中国のものと同様である。

35 煮散の法

中国では煮散という方法を使っている。煮散とは、薬を粗い粉にし、目の細かい布の薬袋に入れて、熱湯の沸騰したものに入れ、しばらく煮て薬汁が出てきたと きに取り上げて服用するのだと思われる。薬汁が早く出て、その出始めに飲めば薬の力は強い。長くおくと薬の力は弱くなる。
この方法は、よく効く薬を煎じるときによく、薬の力は強いはずである。補薬はこの方法はよくない。

36 甘草の使用量

甘草(マメ科の多年草で鎮痛・鎮咳に効果がある)は、今の時代(貝原益軒の生きている時代)の俗な医者は中国の10分の1しか使わない。あまりに少ないので補薬にならない。せめて5分の1は使うのがいい。あとは、人の症状や体力をみて加減すればいい。
日本人は中国の人より体力気力ともに弱いので、純粋な補薬だけでは体に受け付けにくい。そこで甘草や棗(食用・強壮剤)を、ほどよく加える。甘草はあまく、腹が張るのを防ぎ?(防がないのかも)、薬の効力を薄めてくれる。

37 生姜の量

生姜は薬一服に一切れ、もし寒さや風を防ぐためや、痰を抑えるのに使用するなら二切れ用いるといい。皮をむきとってはいけない。乾いたものと干したものは使ってはいけない。生の生姜は、補湯に二分、利薬に三分、嘔吐の症状には四分付け加える。

38 棗の使い方

棗(食用・強壮剤)は、大きなものを選んで用い、種を取り去って一服の薬に半分を使うのがいい。食通が悪くなる症状には使用しないのがいい。強い薬には用 いないのがいい。中国では強い薬でも使うとあるが、日本人にはよくない。加えると薬の力も弱くなる。腹がはる、消化不良、薬が飲みにくい人には用いるのは 禁物である。竜眼肉(りゅうがんの種子、ムクロジ科の常緑高木)も、食通が悪いものには使用してはいけない。

39 中国と日本との味つけ

中国の料理書に書いてある料理の方法は日本のものと違って、みな脂っこくて味付けも濃く、膳立ても甘美である。(食品を膳に配置するセンスが、感覚的に甘 く快く感じられること。もしくは、味が甘くよいことなのかもしれない。?)その味もひどく重くてくどい。中国人は胃腸が強いので、このような料理もよく消 化する。
日本の人はこのような料理を食べると、元気な若い人でもすぐに満腹し、消化不良になって病気になるであろう。日本人には、淡泊で軽い食事がいい。料理人の 腕前も、味の軽いものがいいとする者を優れた職人とする。これは中国と日本の風土や気風の違いからである。だから、補薬を小服にして甘草(マメ科の多年草 で鎮痛・鎮咳に効果がある)を少なくし、棗(食用・強壮剤)は少し用いるようにしないといけないのは当然である。

40 煎じ薬と水の選択

薬を煎じる水は、新鮮で清らかで味の良いものにしなければいけない。早朝にくむ水を井華水という。この水で薬を煎じるのがいい。また茶や吸物を煮るにもい い。新汲水は、夜明けでなくても新たに汲んでまだ器に入れていないものをいう。これもいい。器に入れて長く時間をおいたものは使用してはいけない。

41 利湯と煎じ滓

貝原益軒の生きていた時代の世間では、効果の強い薬を作るにも、煎じたかすに水を206グラム入れて、それを半分になるまで煎じ、それを別に煎じていたも のをあわせて服用する。でも、かすまで煎じていては薬の力は弱く病気が治りにくい。一度煎じたなら、かすは捨てるのがいい。

42 生姜の用法

生姜を小さく分けるときは、根の肢の多いものがよく、その中の一肢を縦に長く割って大小にしたがって三つか四つに分ける。なお医書に、生姜の分量に重さを 使わずに片を用いるのは、生姜を掘り出したときは重く、日がたったものは乾いて軽いのからだ。それゆえ幾分といわずに幾片というのである。

43 棗をとる時期

棗は少し赤くなったものをとる。熟す前にとり、日に長く干しよく乾かす。さらに蒸し、もう一度干す。十分に乾いていないものは蒸してはいけない
薬局や店で売っている棗は、未熟なものを干しているのでよくない。棗の樹は、必ず自宅の庭に植え、熟す前のよいものをとる。

44 服薬と酒食と

およそ薬を服用したときは、すぎに飲食をしてはいけない。また薬の効力がまわっていないときに酒を飲んだり食事をしてはいけない。そしてまた薬を飲んですぐに横になり眠ってはいけない。眠ると薬の力がまわらずに害になる。気をつけることだ。

45 薬とともに食べてはいけない食物

薬を飲むときは、朝夕の食事は日頃よりも注意して選ばないといけない。脂の多い魚、鳥、獣(豚などと思う?)、なます、さしみ、すし、肉びしお(肉を塩漬 けしたものだと思う?)、塩から、なまぐさいもの、堅いもの、すべての生の冷えたもの、生菜で熟していないもの、古くてわるいもの、色と臭いがわるく味の 変わったもの、生の果実、つくり菓子、あめ、砂糖、餅、だんご、胸につかえるもの、消化しにくいものは食べてはいけない。
また、薬を飲む日は、酒を多く飲んではいけない。日が長いときも、昼の間に菓子や点心(正食の前にとる簡単な食物)を食べてはいけない。薬力がまわってい るときは、食事をひかえるのがいい。点心を食べると、昼間に薬の効果がまわらなくなる。また、死人や産婦などを見ると、気分が悪くなり薬の効力がなくな る。用心して見てはいけない。

46 補薬と利薬の煎じ方

補薬を煎じるには、堅い炭などで強い火を使ってはいけない。かれた芦の火、枯竹、桑の柴の火、あるいは消し炭などのやわらかい火がいい。激しく燃える火を 使うと薬力を失う。また、強い成分の薬を煎じるには、堅い木、堅い炭などの強い火を用いるといい。これは薬力を増やすことになる。

47 薬量と身体の大小と病状と

薬一服の大小・軽重は、病状・体格・体力により増減する。補薬は少しずつ服用し、ゆっくりと効果をあげるといい。多く使うと、食通をふさいでしまう。発散 (ちらし薬、腫れや痛みなどを散らして癒すのに用いる外用薬)・下剤・便秘薬などの効果の強い薬は、多く飲むといい。早く効果を出すのが大事である。

48 薬を煎じる器

薬を煎じるには磁器(有田焼・九谷焼の類、少しもったいない気もする。)がいい。銅を嫌わない薬なら、古い銅器でもいい。新しい銅器は、よくない。薬鍋といわれるものは、銅が厚いのでよくない。薬を入れておく缶というのは銅が薄く、小さいものがいい。

49 利薬の煎じ方

効果の強い薬を長く煎じ詰めると、薬のもっている力をなくしてしまう。煎じないで煮て、薬の力があるうちに服用すればいい。茶を煎じ、生魚や豆腐を煮るのと同様である。煎じすぎたり、煮すぎたりすると味が悪くなるし、消化も悪くなる。

50 解毒に水を

毒に当たって薬を用いるときは、どんなことがあっても熱湯を用いてはいけない。冷水がいい。熱湯だと毒の力を増すことになるからだ。

51 中毒と応急処置

食物の毒やその他すべての毒に当たったときは、黒豆や甘草(マメ科の多年草で鎮痛・鎮咳に効果がある)を濃く煎じ、それが冷めたときに何度も飲むといい。 熱いのは飲んではいけない。竹の葉を加えるのもいい。もし毒を消す薬がなければ、冷水を多く飲むのがいい。そして多く嘔吐するのがいい。これは古い時代の 人が応急処置として伝えている方法である。知っておかなければいけない。

52 酒と煎湯

酒を煎じる湯に加えるのは、薬を煎じ終えたときに加える。早くから加えてはいけない。

53 腎臓を養う方法

腎臓は水を支配する。内臓が活発に活動すると、精液もたくさん作られる。腎臓にだけ精液があるわけではない。それゆえに、腎を助けるために腎臓の薬だけを用いてはよくない。腎は、身体の基本である。それゆえに、これが弱ると虚弱になる。
養生とは虚弱になることではない。腎をよく保養すべきである。薬と食事療法では腎はよくならない。精気をおしむことだ。

54 散薬と丸薬との効用

粉末の散薬は、血液にまでまわらない。身体の下部の病気には、大きな丸薬を用いる。胸からへそまでの上腹部の病気には、それにつぐ大きさの丸薬を用いる。 胸から上の部分の病気を治療するには、きわめて小さな丸薬を用いる。薄い糊で製薬した丸薬は早く消化させたいときに使い、じわじわ消化させて中・下部の病 気に使うときは濃い糊で製薬したものを使う。

55 散薬と丸薬の効用

丸薬は、胸から上の病気には、細かく砕き、やわらかくして、消化しやすいようにする。胸からへそまでの病気には、小さな丸薬で堅い方がいい。身体の下部の病気には大きな丸薬で堅いものがいい。
湯で煎じた薬は、慢性の病気にいい。粉薬は、緊急を要する病気に用いる。丸薬はゆるやかな病気に用いる。

56 薬の調合と秤

中国の秤も日本の秤も同じものである。薬の調合は一服の分量を決めてから、それぞれの品の成分の重さを決める。重さを量るには、きわめて少量をはかれる秤を使う。薬は、大きさではなく、重さを基準にする。

57 香の効用

いろいろな香が鼻を楽しませるのは、いろいろな味が口を楽しませるのと同じである。香りによっては、心の平静を助け、落ち着かない心を静める。悪臭を消し、けがれを取り除き神明に通じる。(宗教的なものに、香が使われるのもわかる気がする。)
ひまがあれば静かな部屋に座り、香を焚いて黙座るのは、風雅な趣が増す。これも養生の一つであろう。
香には4種類ある。たき香、掛香、食香、貼香がある。たき香とは、いろんな種類の香をたくことである。掛香とは、かおり袋、においの玉などをいう。貼香と は、花の露、兵部郷(掛香用の、数種の香をブレンドした香組の名)がつける香である。食香とは食べて香りのいいもの、透頂香(ういろうのことで、痰の妙 薬、口臭を取り除くのに用いる)、香茶餠(なんだろう?調査中)、団茶(なんだろう?調査中)などのことである。

58 悪臭をとり除く

悪臭を取り除くには、オケラの根茎を乾かしたものをたくのがいい。胡すい(コエンドロの漢名、サンケイ科植物)の実をたくと邪な気持ちをなくすことができ る。痘瘡(天然痘などのこと)のけがれを取り除くには、いろいろな草をほしてたくと、大小便の毒素をなくす。(これは、ワクチンを用いないとだめだろ う。)手のけがれは、いろいろな草の生葉をもんでぬりこむのがいい。なまぐさい臭いや悪いものを食べたときは、胡すいを食べれば悪臭がなくなる。いろいろ な草の若菜を煮て食べれば味も身体にもよい。

59 便秘の療法

下痢をしやすいのは、おおいに悪い。少し便秘するのはいい。老人の便秘は長寿の証である。おおいによい。だが、ひどい便秘はよくない。胃腸に食物が停滞し て腹痛を起こし、食欲がなくなり、病気になる人が多い。このような人は便秘にならないように治療しないといけない。麻の種子や杏の種皮を取り去った中身 や、胡麻などをよく食べると、便秘にならない。

60 丸薬より早く効く薬の製法

身体の上部・中部の病気に使う丸薬は、早く消化するのがいい。だから小さな丸薬を用いる。早く消化させるためである。
もう一つの方法は、粉の薬に糊を加えて一般の丸薬にしないで、線香のように長さ23センチほどにして、手でもんで引き延ばし、線香より少し太くして天日に ほす。これは一つすつ丸くしたものより消化しやすい。上部・中部の病気を治療するにはこれがいい。下部に達する丸薬には、この方法はよくない。この方法 は、一粒ずつ丸くするよりも早く作れる利点もある。

巻第七 用薬 終わり

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このブログ記事について

このページは、前田が2008年10月24日 04:13に書いたブログ記事です。

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