新入社員のAさんは、上司のB部長から「君は仕事に誠意【せいい】がなく、真心【まごころ】が感じられない」と指摘されました。
Aさんは戸惑いつつも、とりあえず謝罪しました。そして理由を尋【たず】ねると、Aさんの電話対応やお客様への応対に、大きな問題があるというのです。
B部長は「君は、電話対応する際に『ちょっと』『ええと』『だって』などと、お客様に対して失礼な口調が多すぎる。仕事に慣れ、油断が生じて、気が緩んでいる証拠だ」と強く叱責【しっせき】しました。
Aさんは「真心がなくなると、仕事が雑になる」と新入社員研修で指導されたことを思い出しました。研修直後は意識できていましたが、仕事にも慣れてきた最近、様々な面で雑になっていたことを反省したのです。
「お客様第一主義」などと掲【かか】げていても、忙しさにかまけて対応が雑になり、自分の都合を押しつけてしまうことがあります。初心に返り、常にていねいな仕事を心がけていきたいものです。
今日の心がけ◆ていねいな仕事をします
格安メニューを掲げ、大手レストランチェーンが「低価格」競争による集客合戦を展開しています。そうした中にあって、大阪府のB商店街に隣接する飲食店街では、連日、大勢のお客様で賑わっています。
その飲食店街は、「多店舗・少商品プロジェクト」を掲げています。うどん専門店、ハンバーグ専門店など、メニューを絞った店舗が多数立地することで、お客様はどのタイプの店に行きたいかが明確になるというのです。
プロジェクトを企画したD氏は、「店同士の競争ではなく、共存共栄の意識が重要です。異なる種類の飲食店が、地域に根ざした独自色を打ち出し、選択肢を増やせば、リピーターを多数確保できると考えました」と説明します。
スタンプカードに各店舗のスタンプを押し、十店舗まわるごとに、飲食店で使える商品券を提供するなど、お得意さまへの配慮も忘れません。
自社の「損得勘定」は重要です。しかし、「損得感情」を捨て、他社やお客様と共に成長するという共存共栄の姿勢も、強く心得る必要があるでしょう。
今日の心がけ◆連携力を高めます
ある日の早朝、出勤途中のTさんが出合った電車内での出来事です。
電車が発車すると、目の前の通路を空き缶が転がり始めました。電車の動きにつれて、あっちへカラコロ、こっちへカラコロと転がっていくのです。
Tさんは拾いたかったのですが、周囲の目が気になり、席を立つことができませんでした。そして、空き缶を拾えないままの自分に苛立【いらだ】っていました。
すると次の駅で、女子高校生が3人乗ってきました。そのうちの一人が、「かわいそう。私がゴミ箱まで届けてあげるよ」と言って拾い上げました。そして空き缶を持ったまま、友達と楽しそうに話を続けているのです。
職場で、「気づいたことはすぐに行なう『即行』が大切だ」と教えられていたTさん。自分よりも若い高校生が、転がる空き缶に気づき、すぐに拾い上げていた姿に、思わず自分自身が恥ずかしくなりました。
「拾おう」と気づくことは大切ですが、もっとも大切なのは、気づいたことを「すぐに行なう」ことです。気づきを行動に移してこそ本物なのです。
今日の心がけ◆気づいたら実行に移します
四月から食品会社へ入社し、事務員として働くようになって1ヵ月余りのC子さん。元気な挨拶が交わされる明るい職場環境の中で、彼女は細々【ほそぼそ】とした声しか出せず、接客や電話対応に恐怖心を感じている状況でした。
ある日、帰宅途中の電車内で、大学の先輩のK子さんと再会しました。
「暗い顔をしているなんて、C子らしくないよ。お茶でもどう?」という言葉に甘えて、喫茶店で相談に乗ってもらうことにしました。C子さんは、職場で苦手な仕事が多く、すべてにおいて消極的になっていることを打ち明けました。
すると、K子さんは「学生時代の明るさはどこへ行ったの」「もっと気持ちを楽にね。多少の失敗をしたほうが、先輩としては接しやすいものよ」とアドバイスしました。その言葉がスッと胸に落ち、C子さんの気持ち晴れました。
翌日、C子さんがすっきりした気持ちで挨拶すると、「大きな声で、気持ちのいい挨拶だな」と上司から褒【ほ】められたのでした。これを機に、C子さんは職場にスムーズに馴染めるようになり、積極的な姿勢で職務に当たっています。
今日の心がけ◆緊張感をほぐします
大手スポーツ用品メーカーの総務部に勤務して2年目のKさんは、社内で物を大切に扱うことで有名です。電話連絡のメモ帳は広告の裏紙を使用し、社内便には必ず使い古しの封筒を使用するなど、あらゆる物を有効利用します。
Kさんには「エンピツくん」という愛称があります。エンピツが自分の小指より小さくなっても、専用のグリップに装着して大切に使っていることから、その名がつけられました。
Kさんは、幼い頃、祖母から「物を大切にしなさい」「使えるものは最後まで使うと物も喜ぶのよ」と教えられ、それが身に滲【し】みついているというのです。
かつては、Kさんの短いエンピツを見た先輩たちから、「よくそこまで短くなるまで使えるなあ」と冷やかされました。しかし、いつしか「小さなエンピツ」に象徴されるKさんの物への接し方は、尊敬を受けるようになったのです。
皆さんは家庭や職場で、物とどのように接しているでしょうか。一本のエンピツ、一枚のコピー用紙も大切に扱い、物への感謝を深めていきたいものです。
今日の心がけ◆最後まで物を使いきります
人生を川に例えると、私たちはボートに乗り、必死にオールを漕ぐようなものです。ボートは背中の方向へ進むので、過去ははっきりと見ることができます。
しかし、自分が進もうとしている未来を直視することは困難です。私たちはオールを漕ぎながら、見えない未来(目標)に向かって進んでいるのが自然の相であると、受け入れていきましょう。
未来は見えないため、現在という変化する川の流れの中を、これまでに培【つちか】った知識や技術、経験と勘を活かして、オールを漕ぎ続けなければなりません。
激流で目標を見失いかけても、失望したり悲観したりせず、常に希望を高く掲げて、誠実に働き抜いていくことです。必ずや自分自身の生命力が旺盛にみなぎって、激流を乗り越えることができます。
自分自身を燃え立たせるためにも、今までできなかったことや苦手なことにも、果敢にチャレンジしてみましょう。激流に呑まれることなく、軌道修正を施【ほどこ】しながら、自身のボートを目標へ到達させていきたいものです。
今日の心がけ◆チャレンジ精神を発揮します
物事を習得する段階を三つにわけた「守破離【しゅはり】」という言葉があります。もともとは、江戸時代に川上不白【かわかみふはく】が著【あらわ】した『不白筆記【ふはくひっき】』で、茶道の修行段階の教えとして紹介されました。以後、諸武芸の修行段階の説明にも使われています。
「守とは、師匠の教えを正確かつ忠実に守り、物事の基本の作法・礼法・技法を身につける「学び」の段階をいいます。
「破」とは、身につけた技や形をさらに洗練させ、自己の個性を創造する段階をいいます。
「離」とは、「守破」を前進させ、新しい独自の道を確立させる段階をいいます。
職場においても、先輩から第一段階の「守」をいかに身につけるかで、「破離」へと続く、その後の自己成長の土台の大きさが決まっていきます。
助言を喜んで受け入れていくことで、将来「離」に到達した時、自己をいっそう高めていくことができるのです。
思い通りにならない時こそ、それまで培【つちか】った土台が、自己を助けてくれます。自己を発展させる道に、終わりはないのです。
今日の心がけ◆先輩の教えを忠実に学びます
大阪に住むSさんは、2年前に島根の祖母が亡くなった際、祖母が可愛がっていた柴犬を引き取りまし
た。ところが昨年、河原で散歩中にリードが外れ、そのまま行方不明になってしまったのです。
Sさんは翌日から、いつも散歩するコースを遡【さかのぼ】り、愛犬を探し続けました。近所の商店街では「首輪に電話番号が刻印されているので、ご連絡ください」というポスターを貼ってもらいました。
愛犬が行方不明になって2ヵ月ほど経った頃、トラックの運転手をしているという人から一本の電話が入
りました。「島根県の松江というところで柴犬を拾ったのですが、首輪に電話番号があり、連絡しました」とのことでした。
おそらく祖母に会いたくて、400キロ近い道のりを旅したのでしょう。電話をくれた運転手は、「ついでだから」とSさん宅まで愛犬を届けてくれました。
送り届けてくれた運転手に感謝したのはもちろん、久しぶりの愛犬との再会に、幼い頃、優しく接してくれた祖母を思い出さずにはいられないSさんでした。
今日の心がけ◆人の優しさに感謝します
サラリーマンのMさんが、年度始めの歓送迎会で経験した出来事です。
一次会を終えて二次会に誘われたMさんは、同僚や先輩と気兼ねなく語らい、楽しくお酒を飲んでいました。しばらくすると、先輩の中でも一番の年長者が、自らの何十年という職場経験を滔々【とうとう】と語り始めました。
勉強になる話も沢山あったのですが、だんだんと聞くに堪えない他人の批判や、会社にとっての秘匿【ひとく】情報をペラペラと話し始めたのです。当然、座は興醒【きょうざ】めし、その場にいた一同は、何ともやり切れない思いになりました。
普段は無口で温厚なその先輩の豹変ぶりに、Mさんは<お酒の場というものは、人の気を緩ませるものだな>と思い、自分自身の気を引き締めたといいます。
たとえ無礼講の場であったとしても、職場人として決して言ってはならないこと、やってはならないことがあります。心の緩みは「致命傷」ともなり得ます。
一度口から出た言葉は元に戻せません。職場やプライベートにおいて、言動に注意し、その質を高めていきたいものです。
今日の心がけ◆心と言葉の質を磨きます
毎日の生活の中には、「落とし穴」とも言うべきものが時としてあります。
小雨の降る朝、A君は信号のある横断歩道を渡っていました。そこに乗用車が突っ込んできて、すんでのところで急停止したのです。
驚きのあまり、A君は地面にへたりこんでしまいました。近くで信号待ちをしていた人によると、信号が赤に変わった直後、Aさんはそれに気がつかないまま渡ったようなのです。
A君は、<どうして赤を青と間違うようなことをしたのか>と振り返ってみました。そして、考えごとをしながら歩いていたことに思い至りました。
仕事が思うように運ばないことが続き、思い悩んで思考がそちらに向いていたため、何も目に入っていない状態だったのです。
思い違いは、一般的に誰にでもあるものですが、不平不満などが溜まると「心ここにあらず」となり、いっそう周りが見えなくなります。心身のゆとりは正確な行動に通じると心し、清廉【せいれん】な心と体で「落とし穴」を遮断【しゃだん】したいものです。
今日の心がけ◆心にゆとりを持ちます
企業活動において、コンピュータ等の機器類は不可欠な存在です。
日進月歩【にっしんげっぽ】ともいうべき機能の充実により、効率的な業務が可能となっています。しかし便利になった反面、人間の作業が軽視される傾向も見られます。
コンピュータは確実な仕事をし、正確な数値を表示します。しかし仕事には、数値では表わせないものや、機械には任【まか】せきれない領域も多くあります。
これを補うのが、人間の「経験」であり「勘」です。熟練【じゅくれん】した技能と判断により、最終的な仕事の方向性が決定されるケースは、今なお多く見られます。
例えば病院では、患者の基本的な容態【ようだい】は、検査数値の変化を見ればわかります。しかし心の動きやその日の気分までを、機器が把握することはできません。医師や看護師が実際に接して初めて、総合的な患者の状態がつかめるのです。
職能的な勘や技術には、コンピュータや精密機器類を超えるものも多くあります。職場人は、それぞれの業界でそれぞれの技能を有します。その技能を仕事に活かす日々に、私たちはもっと誇りと自信を持ちたいものです。
今日の心がけ◆培【つちか】われた経験を活用します
世界の言葉の中でも、日本語は習得の難しい言語といわれています。
中国から日本に留学したS氏が、最初に言葉で苦労したのが「敬語」でした。文法的な規則性があることを知り、とたんに面食らってしまったそうです。
やがて「日本語の中に敬語があるというより、日本語そのものが敬語なのだ」と気づきました。「心を込めて話しをすれば、こちらの思いをわかってくれる礼の国が日本である」と理解し、日本語を使いこなせるようになったのです。
ひるがえって私たち日本人は、会話で苦労することはほとんどありません。それだけに、「常に気持ちを込めて言葉を発しているか」と問われた時、多くの人が自信を持って「はい」と答えることはできないでしょう。
その日の気分や体調により、会話が雑になったり、気持ちが入っていなかったりという場合が日常的にあるはずです。しかし相手にとっては、こちらの状況は関係ありません。礼の心は不断のものと心すべきでしょう。
状況に左右されない真摯な言葉を、相手の心に響かせたいものです。
今日の心がけ◆礼の心で人と接します
ツバメは、春になると日本にやってくる渡り鳥です。民家の軒先【のきさき】などに巣を作ってヒナを育て、秋にはまた南の国へ帰っていきます。
ツバメは穀物【こくもつ】を食べないため、田んぼや畑の作物を荒らしません。蚊やハエやアブなどの昆虫を常食とするので、田畑の害虫をたくさん食べてくれます。
そのため農村では、昔からつばめは「益鳥【えきちょう】」とされ、捕獲【ほかく】したり、巣を壊【こわ】すことを戒【いまし】めてきました。
店先などで、ツバメの巣を見かけることもあります。天敵であるカラスや猫などからヒナを守るために、人の出入りの多い場所に巣を作って、人間の力を借りてヒナを守っているのです。
ツバメが巣を作る場所は、人の出入りが多いという象徴ともいえます。そこで、「ツバメが巣をかける家は縁起が良い」「ツバメが三度巣をかけると長者になる」などと言われています。
ツバメの巣は、豊作や商売繁盛の印として喜ばれてきたのです。
今日の心がけ◆縁を大切にします
Kさんは商談のため上京し、商店街を歩いていました。すると、3年前に書道用品を仕入れたA社の本店が目に入りました。
店名を見て懐かしく思い入店すると、前を通りかかった女性社員が振り向いて、「Kさん」と微笑みながら声をかけたのです。Kさんは、「自分の娘と同じ年頃の女性に、名前を呼ばれる覚えはないのだが」と思いながら女性の顔を見ました。
その女性はA社のMさんでした。3年前Kさんは、イベントで使用する大量の書道用具を仕入れるため、方々の店を巡りました。切羽【せっぱ】詰【つ】まって飛び込んだA社で、Mさんは初対面のKさんを信用し、取引きをしてくれたのです。
イベントの規模は毎年大きくなり、会社同士の信頼関係はますます強まっています。しかしKさんが担当を後輩に引き継いでからは、Mさんとは音信不通となっていました。Mさんは現在、異動により本店に勤務しているとのことでした。
3年ぶりでも瞬時に、Kさんの名前が出たMさんの対応に、「出会いの時に感じた真摯【しんし】さは変わっていないな」と感慨を深めたのでした。
今日の心がけ◆いつも仕事に前向きでいます
笑顔で語りかければ笑顔が返り、自分も元気になることを、S子さんは知っています。それでも、S子さんは仏頂面【ぶっちょうづら】で不機嫌【ふきげん】な時が多く、<自分は何の取り柄もないし、何の役にも立っていない>と自分を卑下【ひげ】していました。
そんな彼女が、ある行事で受付係となり、玄関でお客様を迎える役となりました。ふだんは陰で目立たないように振る舞っているS子さんでしたが、否【いや】も応もなく表舞台で笑顔を出す状況に立たされたのです。
当日は初めこそ声も出ず、顔も作り笑いでした。それでも、お客様を「いらっしゃいませ」と心を込めてお迎えしているうちに、徐々【じょじょ】に大きな声が出るようになり、笑顔自体も本物になっていきました。
心からのお迎えにより、自然と力が満ちていく自分を実感し、<日頃、自分に笑顔が足りないから、つまらない自分だと卑下してしまうのだ>と気づいたのです。
受付係をしっかりとこなし、貴重な経験を得たS子さん。気分が落ち込んで元気の出ない時ほど、努めて笑顔や明るい声を出そうと心がけています。
今日の心がけ◆落ち込んでいる時こそ笑顔を出します
人間の行なうことに、ミスや失敗は避けられません。お互いのミスをカバーし合う気構【きがま】えは、社会人であれば忘れてはならない心遣いといえます。
例えば、本誌の「今日の心がけ」を斉唱する声が揃わなかった時、「もう一度やり直しましょう」と、即座にハッキリと提言できる人は何人いるでしょう。
より明瞭【めいりょう】な斉唱で本紙の輪読を締めくくれば、それが明日以降の注意点としても喚起【かんき】されます。的確な対応が、職場の活力を倍増させる源となるのです。
ミスの原因を「充分に」検証することは、再発を防ぐために不可欠です。併【あわ】せて大切なのは、その場で起こったミスに対して「即座に」対応する姿勢です。
相手も自分も「言ってよかった。やってよかった」と受け取れる発言や行動が、瞬間的にできるか否【いな】かが、その後の場の空気を左右します。
傍観者【ぼうかんしゃ】になるだけでは、目の前の状況は何ひとつ改善されません。言うべきは言い、行なうべきは行なうという、メリハリある言動が職場人には必要です。
躊躇【ちゅうちょ】のない言葉と態度によって、妥協【だきょう】のない社風を醸成【じょうせい】していきましょう。
今日の心がけ◆必要な指摘は即座に行ないます
「転ばぬ先の杖」という言葉があります。転ばないよう杖を持って歩くごとく、先を見据【みす】えて物事を慎重に進めるという意味です。デイケアサービス職員の太郎君は、「僕は『転ばぬ先の太郎』になる」と宣言しました。
施設には体の自由がきかないお年寄りが多くおり、それこそ転んでしまったなら、大きな事故につながりかねません。入園者の行動を読んで危険を防止すると同時に、皆さんの様々な要望に対応するという意気込みの表われです。
何かが起きてしまってから慌【あわ】てるのでは、仕事というものは成り立ちません。事が起こる前に予測をする行為が、大きな鍵を握っているのです。
予測とは「読み」であり、「想像力」とも言い換えられます。先を読む力の伴わない働きは、どこかの段階で齟齬【そご】をきたすものです。
未来に向けて想像力を働かせれば、いま為【な】すべきことをハッキリさせられます。未来を起点にして考えることで、現在に行なうべき事柄もはっきりするのです。
自分は何を求めて仕事をするのかを、頭に描きつつ業務に当たりましょう。
今日の心がけ◆先を読んだ行動を取ります
春の異動で、T氏の同期である係長の2割が、課長補佐に昇進しました。しかし、T氏は昇進を見送られただけでなく、5年間誰よりも実績を上げてきたと自負する営業本部から、畑違いの調査部へと配置転換されました。
この処遇に不満がくすぶっていたT氏は、企業の組織を知り尽くした父親に初めて助言を求めました。すると、次のように諭【さと】されたのです。
「それは良かった。中国の古典に《これを怒【いか】らしめて、以て、その節【せつ】を験【ため】す》という言葉がある。どれだけ冷静に節度をもって人生を歩める人間なのか、怒った時にそれを見極めるという人物鑑定の知恵だな。激情【げきじょう】にかられようと抑えるところは抑え、退【ひ】くときは退き、《時至【ときいた】るを待つ》ことだ」
「時を待つ」という言葉に鮮烈【せんれつ】な感動を覚えたT氏は、目から鱗【うろこ】が落ちる思いでした。翌日から、資料管理の改革を実行に移していきました。分類、保管、ディスプレイの改善を次々に提案し、実績を上げていったのです。
待つべき時にこそ力を蓄えていきましょう。「待つ時」は飛躍する好機なのです。
今日の心がけ◆待つ力を養います
旅館で働き始めて4年目のFさんは、毎日、館内の整頓と準備をしています。
ある日、Fさんがお客様用のスリッパを玄関に並べていると、通りかかった先輩がスリッパを見て声を上げました。
いつもスリッパに貼っている「花」のシールがずれて、旅館名が隠れていることを指摘したのです。
Fさんには、玄関や宿泊室の清掃・確認、リネンや食事の準備が行き届いているかなど、次々にやらなくてはならない作業がありました。そのため、「シールがずれるくらいは仕方がない結果だ」と軽く考えていたのです。
先輩から、「もっとていねいに仕事をしなさい。これは、とりあえずシールを貼ったという作業だね。その気持ちが伝わってくるよ」と注意されたFさん。<忙しいから仕方がない>という言い訳は、お客様には通じないと考えを改めたのです。
細やかな気遣【きづか】いが、信頼を築く元となります。今している仕事が良い評価につながるように、心して業務に当たっていきましょう。
今日の心がけ◆細やかな気遣いをします
Eさんは、仕事に集中し、一つひとつ着実にやり遂げて、完全燃焼する日々を過ごそうと心がけていました。
納期が迫る仕事を抱えていたある日、Eさんは新たな仕事を命じられました。しかし、<これ以上は無理だ>と、受け入れられない心境でいたのです。
すると先輩に、「やる前から恐れずに、引き受けてみろ。自分で限界を決めるな」と励まされました。その言葉に、Eさんは「限界線を自分で引いていた」と気がついたのです。
以後、仕事を頼まれると、「ハイ」と即座に引き受けるようにしたEさん。自分が苦手としていた業務に取り組むことで、新たな発見をするなど、四苦八苦しながらも、日に日に自身の成長を感じられるようになりました。
限界とは、自分が作り上げた思い込みである場合があります。自ら引いた限界線を、一度打ち崩してみることも必要です。
何かを新たに作り上げていくという繰り返しで、人は成長していくのです。
今日の心がけ◆限界という思いを捨てます
バンクーバー冬季オリンピックのテレビ放映を見ていたAさんは、女子フィギュアスケートのジョアニー・ロシェット選手の演技から目が離せませんでした。
ロシェット選手は、応援に駆けつけた母が急死するという悲しみを乗り越えて、試合に出場しました。気丈に演技をするロシェット選手を見て、Aさんは「自分だったら、リンクの上に立つことさえできない」と思いました。
なぜなら、数年前にAさんも母を亡くしていたからです。当時は悲しみのため、毎日ただ泣いていました。今でも母を思うと、何もできなくなるのです。
しかしAさんは、ロシェット選手が試合後のインタビューで<ママの応援で頑張れた>と言っているのを聞いて、思いを改めました。<私の心の中にはお母さんがいつもいる。悲しんでばかりではいけない>と誓ったのです。
人は誰しも、精神的に弱くなる時があります。苦境に立たされている時は辛いものですが、それでも前に進まなければならない場合があります。<私には支えてくれる〇〇がある>と心に留めて、少しずつでも歩んでいきましょう。
今日の心がけ◆感謝の心を持ちます
主任になって1年目のA子さんは、慢性的【まんせいてき】な時間不足に悩んでいました。
家庭でも職場でも、忙しく動いているわりには、達成感よりも徒労感【とろうかん】のほうが多く、一日の終わりに「また今日も、何もできなかった」と嘆【なげ】くのが日課となっていたのです。当然ながら、表情も冴【さ】えません。
そのような時、上司から「時間管理も仕事のうちだ。明確な優先順位を定め、それを遵守【じゅんしゅ】しなさい。そのためには、仕事を人に任せる勇気を持つことが大切だ」とのアドバイスを受けました。
<仕事も家事も、全て自分がやらなくてはならない>と思い込んできたA子さん。その後、緊急度と重要度の高低で、仕事に優先順位をつけました。
そして、自分だけで仕事を抱【かか】えず、効率よく人に任せるようにしました。すると、A子さんへの信頼感が高まり、会話が増えて人間関係も良好になったのです。
有能な人ほど時間管理が上手だといわれます。時間と心にゆとりを持って業務に励むことで、仕事に対するモチベーションはきっと高まるでしょう。
今日の心がけ◆仕事の優先順位を決めます
現在、社会人野球チームの監督をしているSさん。高校生の時は、エース投手として甲子園に出場した経験があります。しかし、大学へ進学して野球を続けたものの肩を壊してしまい、その後は指導者の道を歩んできました。
Sさんには7歳になる一人息子がいますが、<自分の思いを無理強いするのでは>と懸念し、家庭で野球の話は一切しませんでした。
ところが、ある日、スポーツの名シーンを特集するテレビ番組を家族で見ていると、Sさんの甲子園で活躍する映像シーンが紹介されたのです。
野球選手としての父親を初めて知った息子は「お父さん、野球教えて。やめたりしないから」と、まっすぐな視線を送ってきたのです。その思いを受けたSさんは<この子ならやり通すかもしれない>と確信したのでした。
親子二人三脚の練習を通して、Sさんの息子には「絶対に諦【あきら】めない」という強靭【きょうじん】な精神が育っていきました。10年後、甲子園の地区予選のマウンドに立つ我が子に、スタンドの客席には涙が止まらないSさんの姿がありました。
今日の心がけ◆親子愛を深めます
「心配【しんぱい】」という言葉があります。「心を配って世話をする」という意味もありますが、「心配で、心配で」と言う時は、何かを思い煩【わずら】っている状態を指す場合が多いようです。
その要因は、先が見えないという不安からくるもの、対象となる相手や状況を信頼できないから、などがあるでしょう。もしくは、自分の意のままにしようとする傲慢【ごうまん】さが、心配を生んでいるのかもしれません。
元来、「心配り」というのは、心を尽くして物事を為すことです。そして<必ず信じた通りになる、信じた通りにさせる>と心に強く誓うことです。つまり、未来の明るいイメージを強く思い描くことといえるのです。
不安で仕方がない場合は、そう思う原因を遡【さかのぼ】って考え、不足している心配りを見いだして補【おぎな】いましょう。
取るに足りない日常の細事【さいじ】をあれこれ心配せず、未来に希望を託【たく】し、相手の成長を信じて、お互いに前進していきたいものです。
今日の心がけ◆心配りをします
今日の社会は、急速な変化を遂【と】げつつあります。こうした中で企業が存続していくためには、「時代に順応して常に変化を追う」「時代が変わっても変わらない普遍的な価値観を持ち続ける」などが大切です。
江戸末期、ある人物が坂本龍馬に「今、我々にとって一番大切なものは何だ」と、3度にわたって訊いたことがあります。龍馬は、最初は「刀」、2度目は「ピストル」と、いずれも武器を挙げました。
しかし3度目は、一冊の本『万国公法【ばんこくこうほう】』という国際法の本を挙げました。来たる国際化を見据【す】えて、国家間の争いにおいて重要なのは、血を流し合うことではなく、話し合うことだと考えていたのです。
私たちも、時代に即した「発想転換」「異業種交流」などによる変革が必要でしょう。一方で、変わらぬ大切なことへの再認識も必要です。
長年培【つちか】ってきた技術など、残すべき大切なものを把握【はあく】しながら、新たな価値の創造に向けた変革が今日求められているのです。
今日の心がけ◆変革を図っていきます
Iさんの机周りは、物であふれています。ある日Iさんは、隣の先輩の引き出しの中が、美しく整理整頓されていることにハッとしました。そこで先輩にアドバイスを求めると、先輩は快【こころよ】く答えてくれたのです。
「物には『使えるもの』と、壊れたりして『使えないもの』があるだろう。使えないものを捨てることは当然だけど、まだ使えるものはほとんど保管していたんだ。もったいないと思ってね」。そして、肝心のポイントを教えてくれました。
「だけどある時、『使えるもの』の中にも<使うもの>と<使わないもの>があることに気がついたんだ。<使えるけれど使わないもの>を処分しないと、溜まる一方だ。一度、<使うもの>と<使えるけれど使わないもの>に分けて整理してみるといい」
Iさんがアドバイスに基づいて、引き出しの中の物を分類すると、一年以上開いていない本やファイル、未使用の備品が多数あったのでした。
物を大切にしているようでいて、実は「処分を先送りにしている」ということがあります。宝の持ち腐れを排【はい】し、物を働かせるよう心がけたいものです。
今日の心がけ◆使う使わないを分けます
職場や社会生活において、人間関係に悩む人は少なくありません。上手くコミュニケーションを取るには、どうすればよいのでしょうか。
人づきあいに関する考え方は、個人個人で異なります。親密な関係を望む人もいれば、あっさりした関係を望む人もいます。また、人それぞれに大切にしたいものが違うということも、知る必要があるでしょう。
「気が合う、合わない」は世の常ともいえますが、気の合わない人にも自ら進んで接することにより、相手との距離を序々【じょじょ】に縮めることは可能です。
まずは相手に関心を持ち、異なる考え方に対して耳を傾けることが大事です。誉【ほ】めることは充分に行なう反面、批判は控えめにするなど、意識的な配慮も良好な関係を築くきっかけになります。
職場生活は人間関係を鍛錬【たんれん】する「道場」といえます。上司・先輩・同僚・取引先・お客様など、人と接するチャンスを逃さず、自己を鍛え抜いていきましょう。
「様々な人がいるからこそ、世の中は面白い」と捉【とら】えたいものです。
今日の心がけ◆人との関係を強めます